それでもこれが僕らの持ちうる唯一の武器

 

だがお前にはそれしかないだろ?

思考を、論理を武器にたたかう話が好きです。たぶん『スパイラル〜推理の絆〜』が好きすぎるせいだと思います。

 

本当にこの人は好きなんだろう。論理が。

先日『恋と禁忌の述語論理』(井上真偽)を読み終えたのですが、とってもよかった!!

名探偵の推理を数理論理学で検証する、という話です。しかしはじめは「数理論理学……?」とクエスチョンマークたくさんであらすじを眺め若干読み切れるのか不安になっていたのですがまったく問題なかった!!語り手の詠彦くんが遭遇した事件を、天才学者の硯さんが検証する……んだけどまじでこれが鳥肌ものなのです。頭の良い話に頭の悪い感想をぶち込んでしまって申し訳ないのだがほんとにすごいんだよ、人間の思考ってこんなことができるのか!という、驚きと、なんか急に視界が広がったような爽快感で読み終えたあとめちゃめちゃハイな気持ちになりました……。あと、コミカルな部分も多くて笑いながら読めるんだけど、しっかり苦いところもあって最後はそこへ行くのか!と想定外のところへ連れて行ってもらえたのもよかったな……、いやほんとたのしかったです。

 

しかし、この世にはフェアでないゲームの方が多い。

それでも僕らは思考を止めずに──言葉と論理を武器に、戦うのだ。『11文字の檻』(青崎有吾)はそんな話なんじゃないかな、と思っている。

この『11文字の檻』は全8編からなる短編集で、引用は表題作から。これが非常におもしろかった!政府にとって不都合な作品を発表した罪により、収監された更生施設。ここでは〈政府に恒久的な利益を持たらす11文字〉を正解できれば出所できるとされており、囚人たちは一日中パスワードを考え続けている……というどういうこと?感満載のあらすじ。

2297の11乗分の1、という博奕。これはゲームだ、そうはいうけど圧倒的に不利でフェアでないゲーム。与えられたのはペンとメモ欄、ただそれだけ。それでも、考え続けたさきで辿り着いた場所がとてつもなくよかった。

どの収録作もとてもおもしろかったのだけど、表題作以外で特にお気に入りなのが『加速してゆく』。福知山脱線事故を題材とした話で、忘却をテーマに書かれた話なのだそうだ。作中のある人物の事情が浮かび上がってくるところがすごくよくて、あらためて、小説って、それもミステリっていいよなあ、と思えた作品でした。つい忘れ去られがちな誰かひとりの切実な思いを、きちんと掬い上げて忘れさせないことが、ミステリにはできるんだよな。

 

圧倒的に不利な場所にいても、理不尽でも、まったくフェアではない世界でも、それでも僕らには論理がある、そう思うと、少しだけ、心強いようなそんな気持ちになる。