いつのまにか春

ふらっと立ち寄った本屋でふっと気になって購入した短編集『優しい暴力の時代』がものすごくよかった。最初の「ミス・チョと亀と僕」の冒頭とラストがとても好き。優しく礼儀正しい暴力だから、あからさまに怒ったり、悲しんだりできない。でも、たしかに傷ついたことはわかる。波紋みたいな余韻が、じわりと残る。あと自分は、鉤括弧なしで表現される会話文が好きなので、文章というのか文体というのかがどんぴしゃ好みでそれもよかったです。

優しい暴力の時代の通販/チョン・イヒョン/斎藤 真理子 河出文庫 - 小説:honto本の通販ストア

 

 

『七十四秒の旋律と孤独』タイトルが綺麗だな〜とずっと気になっていたこちら、とてもよかった。個の在り方、個の認識といったものの描かれ方が好きだな、と思いました。『わたしたちの怪獣』収録作の「ぴぴぴ・ぴっぴぴ」を読んだときにもぐっときたところ。次回作もたのしみだな。

七十四秒の旋律と孤独の通販/久永 実木彦 創元SF文庫 - 紙の本:honto本の通販ストア

 

 

『七つのカップ 現代ホラー小説傑作集』既読作品もいくつかあったけど、読み返して改めて「す、す、好きだ……!!」となりました。「芙蓉忌」いいよね。小野不由美の美しくてぞっとする文章が大好き。まじで怖いけど。

それと、こちらも再読でしたが、表題作「七つのカップ」の、幽霊や怪異と呼ばれるものへの眼差しがとても好きだな、と思いました。辻村深月作品は、ホラーかもしくは嫌な話に振り切った話が好みな気がする。

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『幽玄F』信じられないくらいにおもしろかった…………。地上から空を仰いでいるときの、戦闘機に焦がれているときの描写がたまらなく好き。それと突如ブラジリアン柔術を会得したところでめちゃめちゃテンションが上がってしまった。最高。

おもしろすぎたので読み終えた翌日本屋に向かい『テスカトリポカ』買ったのだがこちらも最高!!!だった。文章のリズムがよすぎるんよ。『サージウスの死神』も買ったのでこれから読みます。

幽玄Fの通販/佐藤 究 - 小説:honto本の通販ストア

 

いつのまにか、すっかり葉桜が目立つ季節になっていた。住んでるマンションの外階段に、どこからか飛んできた花びらがまあまあな量で積もっていたのだが、周囲に桜の木は見当たらない。いったいどこから飛んでくるんだろうか。不思議に思いながら通り過ぎる、そんな最近でした。

最近読んだ本あれこれ

 

あんなの、扱い方間違っただけですぐ死にそう

深沢仁の短編集『眠れない夜にみる夢は』がものすごくよかった。「なにも傷つけないように、おやすみ」と「家族の事情」がとくにお気に入り。

冒頭の引用は「なにも傷つけないように、おやすみ」から。とある人物が発したこの言葉がとても記憶に残っていて、それはたぶん、自分も、似たようなことをよく考えるからだと思う。30ページほどの短い話なのに、この言葉の印象が途中でぐっと変わるところがあって、そこがとても好き。

「家族の事情」は、自分たちを少し歪だと思っている弟と姉の話で、姉の結婚相手、つまり義理の兄になるひとを弟が探そうとする……ところからはじまるんだけど、これがすごくよかった。わたしはこの作者さんの書く、ひととひととの関係性や、向き合い方、すれ違い方がとても好みなのだな〜と思いました。

それと、あとがきのBGM紹介が嬉しかったな!Thee Michelle Gun Elephant が聴きたくなった。ので、聴きながらこれを書いているいまです。

 

 

忘れない、と思う。わたしは絶対に忘れない。それがあったことも、その時に発生した怒りも不快も、時間が経ったからって許さない。

高瀬隼子の『いい子のあくび』を読みました。『おいしいご飯が食べられますように』もだったけど、ふだん考えるのをちょっと躊躇ってブレーキかけてしまうようなところを、絶妙にすくい上げるのが上手いな〜と思った。うわ〜わかる〜になってきてもうだんだん読むのがしんどくなってくる。主人公のTwitter*1の使い方が嫌すぎる。怖えよ!

助けてもらえる、と軽んじられる、はたぶん紙一重のところがあって、この話どこへ行き着くんだろうとめちゃめちゃ不安になりながら読んだが、ラストページにぐっときたので、読んでよかったな、と思いました。

 

 

それが過去というものです。

ちまちま読んでいた『てのひら怪談 ずっとトモダチ』を読み終えた!おもしろかった……怖かったぞ!!令丈ヒロ子をかなり久しぶりに読んだがやっぱり好きだな〜となりました。改めてメンバーがめちゃめちゃ豪華!

恒川光太郎の「卒業」がものすごく好みだったな。あっけなく訪れる終わりと、これからも世界は続くんだよ、という予感のようなものが感じられてとてもよかったです。

 

 

どうして、そういう沢山のことを忘れてしまうのだろう?

大事なことも、しだいに薄れていき、大事ではなくなる。

森博嗣『馬鹿と嘘の弓』が文庫化したので再読しました。やっぱりこれ、クリティカルヒット入るな……。斜線堂有紀の解説がよかったです。読みながら「何かが出来るからいじめらんないって怖い話だよな」という台詞を思い出していた*2。持たざる者は、どうしたらいいんだろうな。

 

 

それだけ、ねぇ。役者にとっちゃあ、それがすべてだ

蝉谷めぐ実の『化け者心中』が……最っっっっ高におもしろかった!!!!これこれこれ!!!!わたしがエンターテイメントに求めるものすべてが詰まっている!!!!

江戸を舞台に、元女形の魚之助と鳥屋を商う藤九郎が、役者に成り代わっている鬼を探すというあらすじだけでもうわくわくが止まらんのだが、このふたりがまじでめちゃくちゃいいんですよ!!テンションが昂ぶりすぎてさっきから語尾に感嘆符をつけまくっている!!

なにかひとつのことにすべてを賭けられるひと、賭けたことのあるひとの話がわたしは好きなんだろうな〜と思う。そのうえでそれを奪われたひとがどう生きるか、みたいな話のなかでもこれはとりわけ好みだった。あと自分は虚構が大好きなので、いろんなところで非常にぐっとくるものがありました、まじでよかった……語彙力と文章力が足りねえ……ありとあらゆる言葉でこの本の素晴らしさを語りたい……。

文庫化をきっかけに手にとったのですが、装画があまりにも良すぎて単行本も買ってしまった*3、眺めてはにこにこしています。続編も買ったぜ!読むぞ!!

 

言えない言葉が内側に渦巻いているから、踊りが饒舌になるんだ

芝居や芸術を扱った小説が読みたい!!になったので芦沢央の『カインは言わなかった』を読みました。とつぜんこんな本が読みたい!!になったときに深夜だろうと早朝だろうとすぐ読むことができるので、積み本は一生やめられないと思います。

公演直前に姿を消した主役の男にいったいなにがあったのか?という話なのだが、読んでいて、あーこれいいな、ぐっときたな、となったのは、「本当のこと」に対する捉え方で、これがとてもよかったです。

芦沢作品の『夜の道標』を読んだときにも近いことを感じて、さまざまな作品で同じテーマやモチーフを繰り返し扱う作家が好きなので、これからも芦沢作品続けて読んでいきたいな〜と思いました。おもしろかった!

 

そして……京極夏彦『鵼の碑』を読み進めている!!まだ途中だがめちゃめちゃおもしろい!!!400ページ近く読んだがまだこんなに未知のページが残っている幸せ!!!分厚い本って素晴らしい!!!!

 

*1:いまはもうTwitterではない。なんか寂しくなってしまった

*2:斜線堂有紀の『奈辺』だったはず

*3:折り返したところと裏表紙がめちゃめちゃいいんです、文庫本はカットされてる

知らない街の本屋はたのしい

出不精なので外出、特に遠出はほとんどしない。なので、知らない街に行くことはあんまりない。ただ、ときどき出かけたさきで立ち寄る、知らない街の本屋はたのしい、とは思う。

先日はひさしぶりに知らない街に行った。地元のひとたちに紛れて喫茶店でモーニングを食べた。ただ、その場にいたひとたちみんなが、私みたいにさも地元民のような顔でコーヒーを飲んでいただけで全員その街の住民じゃなかった可能性もある。僕は疑い深い人間です。

モーニングを食べ終えて、本屋へ行きました。駅前の商業ビルのワンフロアすべてが本屋さんだった。そのお店の店員さんおすすめ本コーナーがあって、そこに並んでいた本のいくつかがたいへん好きな本だったのでなんとなく嬉しい気持ちになった。もしいまの生活がどうしても無理になって失踪する際には、失踪先をこの街にしたいと思った。それは失踪ではなくただの引っ越し、転居では?

機嫌が良くなったので、少し足を延ばして別の本屋に行った。タリーズが併設されていた。実は私はあんまりこういうカフェが併設されている本屋が得意ではないのだが、そこは居心地がよかった。たぶん空いてたからだと思う。混んでる場所が苦手です。

いくつか本を購入してライブ会場へ向かった、そう、外出の真の目的はライブだった。ライブ会場は混んでいるけれど音楽が爆音で聴けるしたのしいので好きです。でも、得意か苦手かでいうなら苦手かも。あんまりうまくのれないし、拍手のタイミングとかよくわからんし。でもそれでもいつもたのしいです。

BUMP OF CHICKENのライブでした、このブログまじでBUMP OF CHICKENのことと本のことしか書いてないな。

音楽を聴くと忘れていたことを思い出す。はじめてバンプのライブで『虹を待つ人』を聴いたとき、「うまく手は繋げない それでも笑う」のところで降ってきた銀テープを掴み損ねて、そしたら隣にいた知らないお姉さんも同じ状況で、なぜかめちゃめちゃふたりして笑ってしまったことを思い出した。元気かな、あのひと、元気だったらいいなあ、そんなふうに曲が終わったあとにぼんやり考えてたら、藤くんの終わりの言葉が「また会おうぜ、元気じゃなくてもいいから」でびっくりしてしまった。そう、自分は、基本的にはいつも元気じゃない。いちおう社会人なので最低限の元気の皮を被っているが、いつもぜんぜん元気ではない。なんというか、そっか、べつに元気じゃなくても(もちろん風邪とかは駄目だよ)ライブ行っていいし遠出してみたりしてみてもいいんだよな、とものすごく当たり前のことにいまさらながら気づいた。べつに、元気じゃなくてもいいんだな、と思ったら少しだけ元気な気持ちになった。

買ったばかりの本と、家から連れ出した本、両方が入った本を抱えて電車に乗った、遠出も悪くないな、また知らない街に行きたいな。

 

それでもこれが僕らの持ちうる唯一の武器

 

だがお前にはそれしかないだろ?

思考を、論理を武器にたたかう話が好きです。たぶん『スパイラル〜推理の絆〜』が好きすぎるせいだと思います。

 

本当にこの人は好きなんだろう。論理が。

先日『恋と禁忌の述語論理』(井上真偽)を読み終えたのですが、とってもよかった!!

名探偵の推理を数理論理学で検証する、という話です。しかしはじめは「数理論理学……?」とクエスチョンマークたくさんであらすじを眺め若干読み切れるのか不安になっていたのですがまったく問題なかった!!語り手の詠彦くんが遭遇した事件を、天才学者の硯さんが検証する……んだけどまじでこれが鳥肌ものなのです。頭の良い話に頭の悪い感想をぶち込んでしまって申し訳ないのだがほんとにすごいんだよ、人間の思考ってこんなことができるのか!という、驚きと、なんか急に視界が広がったような爽快感で読み終えたあとめちゃめちゃハイな気持ちになりました……。あと、コミカルな部分も多くて笑いながら読めるんだけど、しっかり苦いところもあって最後はそこへ行くのか!と想定外のところへ連れて行ってもらえたのもよかったな……、いやほんとたのしかったです。

 

しかし、この世にはフェアでないゲームの方が多い。

それでも僕らは思考を止めずに──言葉と論理を武器に、戦うのだ。『11文字の檻』(青崎有吾)はそんな話なんじゃないかな、と思っている。

この『11文字の檻』は全8編からなる短編集で、引用は表題作から。これが非常におもしろかった!政府にとって不都合な作品を発表した罪により、収監された更生施設。ここでは〈政府に恒久的な利益を持たらす11文字〉を正解できれば出所できるとされており、囚人たちは一日中パスワードを考え続けている……というどういうこと?感満載のあらすじ。

2297の11乗分の1、という博奕。これはゲームだ、そうはいうけど圧倒的に不利でフェアでないゲーム。与えられたのはペンとメモ欄、ただそれだけ。それでも、考え続けたさきで辿り着いた場所がとてつもなくよかった。

どの収録作もとてもおもしろかったのだけど、表題作以外で特にお気に入りなのが『加速してゆく』。福知山脱線事故を題材とした話で、忘却をテーマに書かれた話なのだそうだ。作中のある人物の事情が浮かび上がってくるところがすごくよくて、あらためて、小説って、それもミステリっていいよなあ、と思えた作品でした。つい忘れ去られがちな誰かひとりの切実な思いを、きちんと掬い上げて忘れさせないことが、ミステリにはできるんだよな。

 

圧倒的に不利な場所にいても、理不尽でも、まったくフェアではない世界でも、それでも僕らには論理がある、そう思うと、少しだけ、心強いようなそんな気持ちになる。

 

 

 

たまに振り返る

昨年はたくさんおもしろい本が読めてBUMP OF CHICKENのライブに行けたのでよい年でした。よかったことをときどき思い出せるように、日記でも書いてみることにしました。とりあえずおもしろかった本の話とBUMP OF CHICKENの話をしようと思います。これ年明けすぐに書いてたはずなのに、気がつけばもう一月も終わりで、今年も残すところあと11ヶ月みたいです。

 

昨年読んだ本はおもしろい本がとても多かったので数冊に絞って書くの難しいんだけど、とにかく『オルゴーリェンヌ』(北山猛邦)と『神のロジック 次は誰の番ですか?』(西澤保彦)と『箱庭の巡礼者たち』(恒川光太郎)がよかったです!!

 

『オルゴーリェンヌ』は『少年検閲官』の続編にあたる作品で、あらゆる書物が禁止された時代に生きる少年たちの話。序奏の「月光の渚で君を」があまりにも残酷で美しくてもうこの時点で最高なのですが、作家を目指すクリス少年と書物を狩る側の立場のエノとの絶妙なやりとりがものすごくよくてどこまでもおもしろいです。圧巻なのが推理パートで、犯人を絞るなかで「ある人物に犯行ができなかった理由」を探偵役が示すところがほんとに大好き。最後の一ページは、読んだ瞬間に泣いてしまった。


『神のロジック 次は誰の番ですか?』こちらは『神のロジック 人間のマジック』の改題再文庫化。再文庫化していただきほんとうにありがとうございます!!出会えてよかったです!!人里離れた全寮制の学校で、推理ゲームなど風変わりな課題に挑む生活を送る生徒たち……という幻想的な世界が揺さぶられる様が最高だった。あとどういうふうに、とうまく言語化ができないんだけど文章のリズムと言葉回しがかなり好みだった、2023年はいっぱい西澤保彦作品を読もうと思います。『七回死んだ男』も最高におもしろかった!次は『人格転移の殺人』を買ったので読むぜ!

 

 

『箱庭の巡礼者たち』は六つの世界の物語がひとつに繋がる一大幻想奇譚です。どの物語も好きなんだけど、とくに「洞察者」と「ナチュラロイド」がお気に入り。うまく世界に馴染めない存在がかすかな光を見つける話が好きなのかもしれない。作中の「私たちは真っ暗な海を漂う、薄気味悪い仲間で、だからこそ、ほんの少しだけ孤独ではない」という言葉は、たぶん、わたしのなかの大事な位置を占めてときどきお守りになってくれる言葉になると思う。それと「洞察者」は最後の4行がものすごくよくて、何度も繰り返して覚えるくらい読んでしまった。大好きな物語です。

 

ほかにも昨年は読んだことのない作家さんの本をたくさん読めたのでよかったです。『とらすの子』で芦花公園先生に一気にはまったのですが、今年は新刊がたくさん出るとのことでたのしみにしています、いまから嬉しい!それと大御所だけど宝塚きっかけで浅田次郎作品をいまさらはじめて読みました、『蒼穹の昴』めちゃめちゃおもしろかった……!!『珍妃の井戸』まで読んだんだけど、蘭琴の語りが好きすぎて何回も読んで何回も新鮮に泣いている……。生きていてもいいことなんてひとつもなかった、そのうえ生きる理由もない、あの状況下で「生きよう」と思えたその瞬間まで辿り着くと、ほんとに、何回読んでも泣いてしまう。

 

ずっと本の話ばっかりだからBUMP OF CHICKENの話もしよう!ライブに行ったんですよ、silver jubileeの幕張メッセ2日目に行きました。それとなんとZeppもチケットが取れました!!ライブで演奏を聴くと、いままでよりももっと曲のことが好きになれるのでよいです、今回のツアーではFlareがよりいっそう好きになった曲のひとつです。癒えない傷があっても、壊れた心のまんまでも、それでもだいじょうぶだよって肯定してもらえたらなんかちょっと頑張って生きていけそうな気がしてきます。

Flare

Flare

 

2月は戯言シリーズの新刊が出るそうです。とてもたのしみだ!今年もいっぱいおもしろい本が読みたい。